濱村 徳士 (1999年 オマーン)

 


 Oman Expeditionに参加して、僕は「落ち着き」を取り戻しました。今ハッキリそう思います。このプログラムに参加しようと思っていた頃は、やはり焦っていました。「日本の外へ出てゆっくり、落ち着いて考えたい。このままじゃ絶対後悔する」と、オマーンへと旅立った…こんな調子だったと思います。

 ゆっくり考えるなんてExpeditionの忙しい毎日ではムリかもと思っていたんですが、時間が許す限りいろんなことを考え、人に話し、意見を聞き、物事を見ることができました。今、その答えがすこしずつ骨となり肉となりつつあるのがわかります。しかし予想外だったことで、かつ一生の財産になったことがあります。それは、人として「生きる・生活する」ことを純粋に味わってこれたことです。

 SorryよりもCheers!。 Shake HandsよりもHug。 HugよりもKiss。 SmileよりもI love you。なんというか、言葉だけではないショックを受けました。僕は自分で言うのも何ですが社会問題への意識が高い方だと思っていて、今までちょっとそれを自負してもいました。でもハッキリ分かったのが、いわゆる「問題バカ」って奴で僕には人間臭さが足りない。僕はかなり人間臭い方だと思い込んでいたのに、彼等に目の前で負けてる自分が恥ずかしくなりました。なんてこいつら元気がいいんだろう。なんてこいつら感情が豊かなんだろう。他の国のVenturerにいろんな事について口論する心の準備をしていた自分がなんともマヌケで、一度すべてをゼロにした、というよりせざるを得なくなりました。確かに知識を身につけたり能力を磨くことは人が生きていく上で今は大切だと思います。でもそれ以前の根本的な、能力とかではないもの ―喜怒哀楽・人を愛すること・こころ― でこうも素直に純粋に自己実現している人がいるものかと、驚き反省しました。「人間、最後の決め手はこれなんじゃないか」海外旅行や日本での外国人との交流では発見できなかったことでした。


 Phase中、僕はだんだん人間臭くなっていきました。1より2、2より3です。そしてまた一生もののうれしい発見をしました。僕はExpeditionで「トモダチ」の定義をハッキリ理解したのです。こんなエピソードがありました。Juliaという女の子が昼間働いてる時に突然嘔吐しました。僕はその時すぐ後ろにいて、すぐ彼女を介抱しはじめました。その時僕が取った行動は、「吐いた=病気=弱者」という偏見に沿ったものだったと思います。彼女を即病人扱いして大事にいたわろうとしました。でもJadeという子がJuliaに対して取った行動は普段と変わるところなど一切ない、日常的なジョークからでした。ハッと、高校時代野球部に所属していたときのトモダチを思い起こしました。正にこの関係でした。また大学に入ってスポーツをやらなくなった途端、このような関係をつくりにくくなった自分も同時に思い出しました。そうです、僕の中でトモダチとは「困っている時に助けてくれる人」ではなくて、「いい時悪い時にかかわらず助け合える人」なのです。それを理解しました。それからです、ぼくが本当に「落ち着いて」人付き合いをするようになったのは。特に同姓、オトコにはかなり高校時代に戻ったような付き合い方を取り戻しました。そうか、どこかよそよそしい大学時代のトモダチとは、こんなところに違いがあったんだと再確認することができました。お互いに敵意や警戒心がないと分かったときに見せ合う笑顔は最高です。そこに至る過程には男同士では殴り合いが必要な時もあります。その快感を久しぶりにお腹一杯になるまで味わいました。久しぶりにオトコととことん付き合いました。女の子のトモダチはこのExpeditionでは少ないけれど、Jadeには後でその話をしてたちまち親友になってしまいました。異性の親友を作るのってこんなプログラムがないと結構大変ですよね。

 このExpeditionの舞台になったオマーンという国についても書きます。確かに石油と天然ガスが豊富な国で、それだけオマーン人の生活は物価から比べるとかなり裕福なものです。しかし独立後まだ30年しか経っておらず、独立前の極貧時代を大多数の国民が経験しているため、まだまだ「古き良きオマーン」が至るところに残っていました。一家の主は毎晩村の中心に集まり村の出来事や予定を話し合い、1日5回モスクでのお祈りの度にお互いに心のこもった挨拶を交わし、困った人がいたらすぐ助け、毎日村人同士で夕食を招待しあうなど、村全体が家族になっています。オマーンはイスラム教の戒律が厳格な方に属する国の一つで、国民の道徳観が非常に高いのが特徴です。ここ9年間で新聞に殺人事件が一件も掲載されていないくらいです。日本が高度成長期やバブル期に酔いしれたのとは違い、オマーン人は経済的に裕福でありながらもそれに浸り切らない、Identityを失わない、そんな自分たちの国を誇りに思っていました。あれほどまでに国民全体が経済的に裕福でありながら精神的にも豊かな生活を営んでいることに、驚きを隠せません。日本は欧米をよく参考にしますが、アラビアの国々からあまりものを学びません。しかし僕は実際に地元民と接していた間に、「人の生き方」の覚悟と喜びを勉強させてもらった気がします。それくらいオマーンは多面的に平和で豊かな国でした。さらに多くの日本人、欧米人が誤解している「イスラム教」、「断食」、「アラビア人は時間を守らない」など、僕たちの価値観では計れない歴史・環境を肌で知りました。

 Omanですっかり落ち着くことができました。もしExpedition参加を諦めていたらと考えると、恐ろしいものがあります。プロジェクトに関しては参加者全員すべてに不満を持つ程不備だらけでしたが、トモダチと地元の人たちのおかげで心地よい時間を過ごすことができました。何をするにも人間臭さを忘れない姿勢が現時点の僕の財産です。 やはり、行ってしまったVenturerの1人として、これからの人たちにも是非いい経験・葛藤をしてもらいたいと感じます。僕自身は、親友から授かったメッセージの「和と想いと感謝の継続」を続けていきまたいと思います。