小見山 あつ子 (1999年・チリ)

 チリは遠かった。Expeditionに向けての思いが熱くてやけどしそうだった自分自身にとって、サンチアゴまでの道のりは笑ってしまうほど凍っていた。そんな自分があの独特な雰囲気にのまれてついていくのがやっと。しかし、そのうちに声を出すことが自然になり笑っていた。ゲームをし鬼ごっこをして、大声をはりあげているいつもの自分がでてきていた。

 かちんこちんで始まったExpeditionの1phaseは私が一番やりたかったこと”冒険”だった。緊張のままトレーニングは続き、なおかつ”Say again!”と繰り返さなければついていけずにいた。それでも繰り返せば理解できるということがわかってきて、”わからないままにはしない!”と自分を盛り上げていた。そしていくらか自信がついてきた1phaseの前日。その自信がぽっこりへこんでしまった。今思えば他愛もない友人の言葉が聞き取れず何度も聞き直して、それでもからないでいる私にしびれを切らした友人はため息をひとつ。尋ね方一つで違った空気になっていたかもしれないけれど、あのときの私には精一杯。聞き逃すまいという思いが私の心に壁を作ってしまった。そこで初めて涙を流す。


 セロ・カステイロという国立公園に向かう。雪山だ。ふもとの牧場でRadio Checkをして無線が使えるかどうか確認。なにがなんだかわからなかったが初めてField Baseとはなすことができた。”Hello zero, this is Alpha1......”と友達にしがみつきながら声を出す。それからは徐々に肩の力も抜け、山での1週間がすぎた。でも、この雰囲気には慣れたが何かが私を不安にする。そんな時Re-supplyをもらいに下山。一番ほしかった日本より便りをもらい、あったかい言葉たちに抑えていた気持ちがふきでてきた。がまんすることはできなかった。いや、我慢しなくてよかった。そこで腹の中にたまっている私の”思い”達を聴いてくれる人に出会えた。みんなの中の私と、その人の前での私。その2つを段々と1つになったらいいなという、少しづつの努力が始まった。

 毎日のミーティングは私の最もチャレンジの場所だった。普段はなかなか声に出せないこともミーティングはみなにチャンスがある。みんなが一人の言葉を聴くという大事な時間だと思っている。友達にいつも時間がかかると言われながらも、少しずつ思ったことを伝えていけた。ある時友達に言われた言葉が離れない。”あつこは言うまでに時間がかかるが、ゆっくり、はっきりしてるからよくわかる。ゆっていることもなるほどっておもうよ。”うれしかった。みんなの中で自分がどれだけ出せるかばかりを考えていた私にとって、そうやって返してくれる友達の声は暖かかった。

 雪山トレーニングも終盤、吹雪の中の雪穴での1泊そして何度かの1day登山も終えた頃ようやくばらばらだったみんなが一つになる瞬間に出会えた。天気の良いあるピーク手前でのこと。一人の女の子が体調が悪いと告げる。私たちはそれでもなおピークを目指すか、それとも引き返すか話し合った。私を含め何人かはこのチャンスに是非ピークまで行きたいと言った。一人ずつどうしたいか気持ちをぶつけた。彼女は”みんなが行きたいのだったら行く。けれども上まで行ける自信はない”。”ここにくることはもう2度とないからいきたい!””ひとりでも無理して行くことになるならば降りよう””ピークまで行ってもっと悪くなってしまうことを考えると今のうちに帰る方がいいのかもしれない。”などと、みんなで話した。この仲間がとても心地よくなった私。ドキドキしながらも”私はみんなが笑顔になる選択をしたい”と言えた。そして、一人をのぞいてみんな弱者のことを思いやろうと言うことになった。どうしても行きたいと行った彼はとても悔しかったと思うがそういう登り方は一人でもできると思った。何のためにグループでいるのか、ラーリーなのか。その日のミーティングはとてもいい話し合いができた。その彼も悔しいけれどみんなが笑っていられる方がいいということを言ってくれた。何がベストなのかわからない。しかし、あきらめることもチャレンジだった。

 それからはいつも馬鹿笑いして歌って踊っている自分に戻っていた。かちかちになっていた自分が嘘のようだった。自分の思いを伝えれば返ってくる安心感、疑問に思ったことは話し合えばいろいろな意見に出会えることがわかった。最初の3週間のなんて濃かったこと。そこでもう私のチャレンジは終わったような気がする。それからの日々は、素直に新しい出逢いをよろこび仲間とのぶつかりを怖がらない私がいた。楽しく海で泳ぎ、島の子ども達と踊り、鹿を探しに誰も踏み入れたことのないような山に入った。後少しでヘリコプターを呼ぶようなぎりぎりな状況になったときもあったがどうにかなると信じて進めた。

 ラーリーは本当にきっかけだったんだと思う。自分がこれだ!と思い、準備をして実行。そして、帰ってきて。これからの夢に向かっての1歩がようやく踏み出せたような気がする。